素晴らしいアニメというのは、人物の描写が卓越している。つまり、それぞれの心の動きや描写に隙がなく、非常にクオリティーが高いというのが特徴であると思われます。今回は、私が大好きな『宇宙戦艦ヤマト2199』のシリーズから、プロフェッショナル心理カウンセラーが語る、恋愛心理学をお届けしたいと思います。

『宇宙戦艦ヤマト2199』には、とても魅力的な男性と女性のキャラクターが登場します。その中で、主役となっているのは、古代進戦術長。そして、彼をとりまく女性の中には、かなり多くの女性がいるわけですが。とりわけ、船務長である森雪さんと、戦闘機を乗りこなす格好いい山本玲(あきら)さんのお二人が、良い意味での恋のライバルとして登場します。
旧作では、目立った女性乗務員は森雪さんしかおらず、なんとなく、主役の古代進さんと結ばれるのは当たり前のような成り行きだったことを考えると、旧作を中学校の頃に見て、まさに理想のカップルと憧れていた私にとっては、今回の『2199』は懐かしい初恋の味を思い出させてくれるノスタルジックなものであり、かつ、心理カウンセラーとして25年間のキャリアを持った今だからこそ語れる恋愛心理のパターンというものを分析できるかと思います。
まず、その第一弾として、森雪さんと山本玲さんの二人の人格を比べながら、『2199』の場面の中で、どこで恋におち、どのようにして恋を育んでいくのか、というところをお伝えしていきたいと思います。

1.まず、第一項目として、私たちは一体どんな時に恋に落ちるかを、心理学的に語ってみました。

まず、森雪さんがどんな時に、古代進くんと恋に落ちたのかを、ちょっと説明してみたいと思います。森雪さんは最初、非常に反発をし、なんとなく嫌なイメージの相手として印象付けられています。初対面の時に、いきなり南部くんにつっかかってきた古代進くん。そして、その後も、挨拶をしたヤマト艦内で突然、無視されてしまったり、かと思ったら、屈託なく話しかけてみたり、古代進くんは設定上、女心の分からない鈍感なやつという設定であり、しかも、周りがなんとなくそれを許容している節があります。
つまり、性格的には女心が分からない分、天然で、特に、森雪さんには人間的には何かしらミステリアスなところもあり、惹かれてはいるけれど、最初は怒りっぽくてなんとなく嫌なやつだなあ、というような印象を持っていたようです。

実は、ここも一つ目のポイント。おそらく、想像するに、森雪さんはとっても頭脳明晰で、プロポーション抜群。性格も優しくて、どんな人からも好かれている。となると当然、彼女のことを好きという男性は、とても多いはずです。つまり、彼女は普段から男性から無視をされたり、悪い印象で扱われるということがなかったのではないかと思います。男性は、どこか自分自身に気を遣い、傅いてくれる存在だというのが、無意識のうちに刷り込まれているのかもしれません。そんな中、そっけなく、自分のことを無視したり、自分の言うことに従わず、あくまで自分の我を通す、反抗的な古代進くんは、なんとなく、同級生のような兄妹ケンカのような、それでいて気になる存在としてカウントされたのではないでしょうか。

以前、お聞きしたことがあるのですが、あるとてもモテる男性の方は、そのビジュアルやルックスでモテているのではなく、女優さんやモデルさんのようなキレイな女性を見たら、ことさら相手を貶すということを意識するそうです。つまり、もともとのプライドも高く、自分はモテて当たり前と思うように無意識に思っている女子(これを心理学的には、自己肯定感が高い。つまり、自分のことを素晴らしい存在だと認識している)という風に呼んでいます。こういう女性にとっては、まさに自分の言いなりにならない男性ということに興味を惹かれてしまうのかもしれません。

 

次に、決定的に森雪ちゃんが恋に落ちるシーンがあります。それは、冥王星でガミロイドに誘拐されかけた時、古代くんが助けてくれるというシーンです。これは、心理学でいう「吊り橋効果」。つまり、吊り橋を渡っている時に、私たちは、その怖さゆえからドキドキしますよね。その時に、目の前にいる異性を見て、恋をしているドキドキと怖かったという心臓のドキドキが一緒になって、「私、目の前の人に恋をしているんだ」という風に思ってしまう現象のこと。

つまり、冥王星で、ガミロイドに誘拐され、非常に不安になっているがゆえに、その後、敵から砲撃攻撃を受ける森雪ちゃんにしてみれば、もう命の危険にさらされているドキドキなわけです。そんな時に、古代くんが助けてくれ、しかも、そのドキドキの中で、命を守ってくれた人という認識が生まれ、初めての抱き合うというスキンシップも偶然ながら起こってしまいます。つまり、この時点で、もうすでに森雪ちゃんは古代くんのところで恋におちているというふうに言えるわけです。

そしてさらに、そこに拍車をかけるシーンがあります。エレベーターの中で、雪ちゃんが、「助けてくれて、ありがとう」というふうに言ったとき、古代くんはさらっと、「いや、任務だから」というふうにして返します。これも、森雪ちゃんにしてみれば、プライドをかけて小さな告白をしたときに、さらっと、「いや、自分はそんな気ないよ」というふうに返されてしまうようなもの。もうすでに、この時には、「吊り橋効果」によってドキドキが固定化していますから、その後に、さらっと相思相愛になるのではなく、なんとなく、相手がそっけない態度を取らされると、ついつい「これは」というふうに燃え上がってしまう。実は、あの理想的な相思相愛のカップルは、森雪ちゃんの方が、積極的に先に好きになり、片思い期間を経て、古代くんのハートを射止めていくことになります。

2.では、山本玲さんは、どこで古代君を好きになったかを分析してみたいと思います。

玲ちゃんは、比較的早い時期から、自分の気持ちに気が付いています。つまり、自分自身がお兄さんを亡くしていて、それに対して、非常に深い心の傷を負っています。同じく古代くんも、先の戦線でお兄さんを亡くしていて、同じ痛みを持っています。この二人、どうやらなんとなく、お兄さんコンプレックス、「ブラザーコンプレックス」の気があるようです。お兄さんを憧れとし、理想としていた二人にとって、その理想であるお兄さんを亡くしてしまうというのは、非常に大きな喪失感であったでしょう。その喪失感をなんとなく埋めてほしい、癒されたいという気持ちから、境遇の似た二人は惹かれあうことになります。特に玲ちゃんにとって古代くんはお兄さん代わりとなるわけです。
また、古代くんにとって、玲ちゃんは命の恩人。自分の命を助けてくれた凄腕の戦闘機パイロットです。感謝の気持ちが、なんとなく好意的な気持ちになる。そして、玲ちゃんにしてみれば、自分のことを航空隊に入れてくれた、また上官であり恩人という関係になります。つまり、お互いが相手に対して、感謝の気持ちを持ち、相手が持っている強さやパワーのところに惹かれていっている一面があります。
そして、何よりも注目すべきは、同じ境遇を持っている、同じ痛みを持っているということ。これを心理学で、「陽性転移」とも呼ばれるこの考え方は、相手が自分自身と似たような境遇であると、同じ痛みを持っているために、その相手を好きになることや、慈しむことによって、自分自身の心の傷を癒していきたいという心理状態になるわけです。
つまり、玲ちゃんは、最初から「転移」によって恋をします。古代くんもまた、この時点では、少し玲ちゃんの方が気になりかけているわけです。つまり、恋をする第一ステージの時点では明らかに、玲ちゃんの方が、森雪ちゃんよりもリードしているというわけですね。

そして、二人の女性は、お互いの仕事やその問題を認め合いながら、一人の男性を挟んで、それぞれが恋を育んでいくという状況になります。

なんせ、宇宙戦艦の狭い職場恋愛のこと、常に相手の動向や、どういった過ごし方をしているかなどによって、なんとなく分かってしまうもの。
特に、女性二人が、大浴場の中で、「あの人に対して、特別な思いを持っていない?」と語りかけ、「私が、誰にそんな思いを持っているというんですか?」と言い返すシーンでは、まさにお互いの性格がよく表れています。

ここのシーンで森雪ちゃんが、古代くんのことを意識してその言葉を話していたかはわかりません。純粋にガミラスの女性兵士とのことについて心配をしていたかもしれません。そういった面倒見の良いところが、彼女の魅力でもあるからです。

ところが、玲さんの方が、明らかに意識をしていて、ムッとしたり、つっかかったりします。このあたり、ちょっと女性陣のメンタリティに、注目していただきたいのですが、私が思うに、さっきの森雪さんとは対照的に、玲さん関しては、恋愛経験があまりないのではないか、男性とお付き合いしたことが、あまりないのではないかと思います。つまり、自分の感情に戸惑い、慌てている様子がありありと分かります。「そうよ、私は彼が好きなのよ」と開き直って、アタックすればいいところを、いちいち、自分の気持ちに戸惑ったり、森雪ちゃんに反応するあたり、恋愛初心者と言わざるを得ません。

古代くんと山本玲ちゃんは、艦内活動で一緒にみんなが地球との通信を楽しんでいる間に、共に船外での共通の時間を得たりしています。このみんなが地球との通信を楽しんでいる間、共同の作業をする。これは実は、無意識とはいえ、非常に大切な恋の育み方です。つまり、地球との交信をする相手がいないという時点で、すでに孤独感を抱えています。その孤独感を慰め合ったり、愚痴り合ったりするのではなく、一つの創造的なクリエイティブ作業によって、お互いが一つのものを創り上げていく。つまりこれは、お互いがお互いの心情を吐き出すよりも、より効果的な恋の育み方。一つのことを一緒に向かってやっていく、それがたとえ小さな作業であっても、なんとなくつながりや共同意識が生まれるものです。

つまり、ここまでは明らかに、玲さんの方が、良い「恋の育み方」をしていたというわけです。ところが、ガミラスの女性兵士・メルダが来た辺りから、少しバランスが崩れます。自分たちが戦ってきた敵と接することで、古代君の気持ちの中になんとなく、ガミラスに対する怒りが消え、同じ人間として、ガミラス人も同じなんだということに気づきます。また、山本玲ちゃんもこのメルダと友情を育んでいくことによって、兄さんを喪った悲しみは消えないけれども、怒りや憤りというものが少しスッキリしたというふうに述べています。

つまり、二人を結び付けていた深い悲しみが少し癒されることで、逆に言うと、お互いの絆が少し薄まってしまうようなこというのはよくあります。

つまり、私たちの日常生活の中でも、メンタル的にちょっと弱っている時、同じような痛みを抱えている人と出会うと、すっと恋に落ちてしまうことがあります。でもそれは、先ほども述べたように、本当にその人が好きなのか、相手の中にいる心の痛みに投影をして、そして、それを好きになることで癒されようとしているのか。私たちには、そういう区別はつきません。

恋は突然、天から降ってきたように、私たちの心を支配してしまいます。そして、自分たちの心が弱っている時に、始まった恋も、その心の回復過程によって絆が薄れて、なんとなく自然消滅してしまうということも、実はよくあることなのです。

そして、ここから森雪ちゃんが、古代くんとの距離を詰めてきます。

古代くんが一人で戦闘機に乗っている倉庫に行って、何気に、「私も、山本さんのようにうまく操縦できるかな」と語り掛けるシーンも絶妙です。そこで、「いや、無理でしょう」とあっさり言われて、あきらめるでもなく、その後、何につなげていくかというと、「私に、操縦の仕方を教えて」というふうにアプローチをしていきます。つまり、明らかに、この戦闘機の操縦ということに関しては、山本玲ちゃんの方がスキルがあり、自分の仕事においてはパーフェクトを誇る森雪ちゃんでも、戦闘機の操縦に関しては全く敵いません。ただし、その自分の弱点をむしろ強みに変えて、であれば、「操縦を教えてもらおう」というようなアプローチをしていくのです。

男性として見たら、非常に聡明で、才能溢れる可愛い女性が、本人の苦手な所で、かつ、男性自身には若干、得意な分野であることを「教えてください」と言ってこられる。これに、抗える人はほとんどいません(笑)。「面倒くさいな。なんでだよ」と思っても、ついつい可愛く、「お願い!」なんて言われると、「いいよ、しょうがないな」というふうに答えてしまいます。そして、この戦闘機の操縦というところも非常に素晴らしい選択で、放っておいても二人きりになれるし、男性として見たら、プライドを満たすこともできる。こうして、閉鎖的な戦闘機の練習という空間の中で、少しずつ二人は、お互いの心の距離を縮めていったのではないかなというふうに思います。このあたりの男心の使い方、さすが人気ナンバー1だけあります。

後に、古代くんが死んでしまった森雪ちゃんを抱きしめる時に、ご自分で回想しています。「記憶を失くしているのに、いつも明るい君に、自分はどんどん惹かれていった。」そう、古代くんは元々、女心には鈍感ではありますが、人の心の痛みに関しては、非常に、キャッチをするのが繊細な男性であると思われます。だから、玲ちゃんの心の痛みも分かるし、森雪ちゃんの記憶がないところの痛みもキャッチできるのでしょう。男性であっても、自分自身も家族を亡くしたり、孤独や痛みを抱えていると、相手の痛みをキャッチしやすいというところがあります。これは、逆に言うと、先ほどの「投影」の一つでもあるのですが、この場合、雪ちゃんが変につっぱったり、「自分は大丈夫なのよ」というプライドや才能を鼻にかけたりせずに、素直に甘えていっているというところが勝利のポイントです。

「私、実は記憶がないの」なんていうような悲しいことをさらっと話す。
しかも、他の人には話さないであろうということを、あなただから話すというふうに、思わせてしまうと、男性としては、「頼りにされているなあ。自分がついてあげないといけないのかな」というふうに無意識に思ってしまいます。つまり、この森雪ちゃんの男心を掴んでいる女子力の高さこそが、のちにじりじりと恋の勝利者になっていくわけです。

先ほども述べたように、森雪ちゃんは恋愛における自己肯定感が、山本玲ちゃんに比べて高いと思われます。自己肯定感の高さは、自分で自分のことが好きで、自分には愛される価値があると思っているということです。この自己肯定感の高さは、自分の気持ちに正直になれたりするから強いんです。

イズモ計画が失敗して、古代くんたちがヤマトに帰還してきたときに、森雪ちゃんは素直に古代くんの胸に飛び込んで行って、涙を流します。ここでは、いくつか理由があって、イズモ計画で拘束されているということに対しての、恐怖や不安もあったでしょうし、自分はイスカンダル人ではないかと疑われて、自分自身のアイデンティティーを見失っていたということもあります。そこに愛おしい人が帰ってきてくれたので、もう自分としては気持ちをぶつけて、真っ先に駆け寄って、胸に飛び込んでいます。この時点ではもう、森雪ちゃんとしてみれば、言葉では言っていませんが、大好きだと告白したも同然。

当然、南部くんは驚いて、叫び声をあげていますし、玲ちゃんも横を向いてしまってします。

ここで面白いのは、古代くんの反応。古代くんは、飛び込んで来られた森雪ちゃんに対して、一瞬、戸惑っています。まだ下の名前で呼ぶこともできず、「森くん」と言いながらも、戸惑いながらも、そっと肩を抱くというシーンがとても印象的です。つまり、この時点で古代くんは、森雪ちゃんのことは気になる存在ではありましたが「大好き」という自覚は無かったと思うのです。それが、ああいう愛の告白をストレートにされてしまったことで、なんとなく自分の中に恋の意識が芽生え、「あ、この子、自分のことが好きなんだな」というような気持ちが出てくるのかもしれません。やはり、女心に鈍感な男性には、むしろ積極的に、ストレートに好意をぶつけていった者が勝ちかなというふうに思います。

その晩、二人は偵察に出かけ、魔女の呪いにかけられたヤマトの艦内に戻ってきます。ここでまた、第二の「吊り橋効果」が。今度は、二人同時に起こります。自分の中の好きな人の思い出や、辛かった思い出を深くアプローチをされていく精神攻撃によって、自分自身の色んな欲望がむき出しになっていきます。家族を亡くした悲しみや孤独感をもう一度、再認識していくというところにおいて、お互いの気持ちが愛おしい人や、そばにいてほしいというふうに思う気持ちが高まってくるからです。その時に、森雪ちゃんの「助けて」という精神的なメッセージを聞いた時に、古代くんが初めて、森雪ちゃんのことを下の名前で呼んで叫んで飛び出します。そして見事、森雪ちゃんを助け出し、二人でほっとするというシーンがあります。

普段、イメージできていない名前の呼び方を、急に途中で変えるということは、ほとんどの場合、人間はできません。つまり、名字で呼んでいる人は、ずっとその名字を本人として認識しているので、それを突然、下の名前で呼んだりということは結構、難しいのです。コミック版『宇宙戦艦ヤマト』では森雪ちゃんが、「雪って、下の名前で呼んで」と可愛いらしく、おねだりするシーンがありますが、アニメ版においてはそういったシーンは出てきません。ただ、「下の名前で呼んで」と言われたとしても、やっぱり仕事上、戦術長と船務長なわけですから、なかなか簡単に「はい、そうですね」と言って、下の名前で、呼べるわけはありません。つまり、下の名前で呼ぶということは、仕事を離れたプライベートな空間で、「下の名前で呼んでね」といったメッセージが含まれているのかもしれません。そして、この時点で、古代くんは初めて、森雪ちゃんのことを「雪」と呼び捨てにします。

お互いが、深く心の傷をさらけ出し合ったときに、強くその存在を認識するということは、とても大切なこと。今度は逆に、雪ちゃんだけではおなく、古代君までもそのドキドキが「吊り橋効果」によって、雪ちゃんのことを好きになるというようなことが想定されます。

これはちょっと、例え話は違いますが、普段は距離のある相手と、皆で飲みに行った中で、いきなり二人でそのメンバーから外れることになり、二人で飲んで、深く自分の心の心象を語り合った後に、突然、恋が芽生えてしまうといったような心理にも似ているのかもしれません。

そして、すべてのこのことが終わった後に、雪ちゃんはダメ押しの告白をします。「私も、会えたよ。最後に助けに来てくれたでしょ(あなたが)」というようなメッセージを出すのです。つまり、記憶のない私にとって、一番会いたかったのはあなたであり、あなたが最後に助けてくれたので、それがとても嬉しかったということをストレートに言っているのです。

この時点で、すでに十分、恋の相手として、森雪ちゃんを認識していた古代くんにとしては大慌てで「それってどういう意味?」っていうふうに聞き返します。

そこで、森雪ちゃんの恋愛の達人としての素晴らしい切り返しがあります。「それは、内緒よ。」これはすごい。まさに上級恋愛コミュニケーション!!

ここで、「それは、あなたなのよ」と言うのではなく、「それは、内緒」と言うことで、はぐらかすことによって、気を持たせ、相手をさらに夢中にさせていくという効果があります。
つまり、「ここで助けに来てくれたでしょ。それは、あなたよ。私、あなたのことが好きなの」と言ってしまうと、どうしても、女子の方からストレートに告白したという体になり、非常に付き合った後、不利なことが様々予測されます。ところがここで「内緒」と言っておくことによって、当然、相手は「この女性、自分のことが好きだな」ということが薄々分かるわけですから、気になって気になって仕方がない。今度は、追う側から追われる側に反転させる一つのポイントであるわけです。これはまさに、自己肯定感の高い、女子力高い女子だからこそ、できる上級テクニックといえます。素敵な男性をゲットしたいと思っている方は是非、彼女のこのトークを学んでみられると良いのではないかと思っています。

このようにして、ほぼお互いの気持ちを固めてきた二人ですが。この後、森雪ちゃんはガミラスに拉致されてしまうことになります。つまり、もう会えないかもしれない。生きて会えないかもしれないという究極のピンチ。アクシデントが二人を襲うわけです。

ところがこれは結論から申し上げると、二人の気持ちの、特に、古代くんの気持ちを決定的に、森雪ちゃんに釘づけにするという、そういった効果がありました。ずっとそばにいてくれた人が、このようなアクシデントで目の前からいなくなってしまう。それだけでも、もうやりきれなくて胸が痛むはずです。しかも、助けに来てくれるのを待っているというようなシチュエーションは、まさに、「自分がなんとかしなきゃ。なんとかしてあげなきゃ」という思いになります。「拉致されてかわいそう。今頃、どんなにひどい目に遭っているんだ」と思えば思うほど、その罪悪感と苦しみが、さらに相手が好きなんだというような気持ちに転化していくわけです。

なので、身に起こったアクシデントやつらい出来事は、逆に恋にとっては、最大限のチャンスの時。お互いが、一生離れられない絆を育む、とても素晴らしいチャンスの時。まあもちろん、森雪ちゃんはそんなこと分かって、わざと拉致されたわけではないですけれども(笑)、それが非常に決定打となったというようなことは、正に運命の恋と言えるのではないでしょうか。

ちなみに、このガミラスに拉致されているとき、森雪ちゃんを守ってくれていた異星人の彼(ノラン)。彼は、森雪ちゃんがスターシャの妹ではない、イスカンダル人ではないということに気が付いた後も、森雪ちゃんを守り続けます。それは一言でいうと、彼女が自分を助けてくれた人であり、すでに助けてくれた時点で、大きく恋に落ちてしまっているわけです。
このあたりの男性の心の掴み方も、正に、人種を超えて絶妙を言わざるを得ません。この女子力、そして、自己肯定感の高さが、正に見習うべき最強の女子であると私は思います。森雪ちゃんの自己肯定感の高さは、こういうセリフに表れています。

ノランが、「逃げましょう」と言ったときに、「え、そうなの? 助けてくれるの?」という反応でも、「よかった。助かるんだ。逃がしてくれるんだ」という反応でもなく、実にいさぎよく、「そう言ってくれると思っていた」というふうに、にっこり笑って、邪魔になるロングスカートの裾をしっかりと切り裂いて、ミニスカートに変身します。自分と関わってくれている男性が、いつの間にか、自分の味方になり、自分の応援者になってくれることを、彼女はよく分かっているわけですね。この女子力の高さをもってすれば、純粋な若い兵士たちは、もう彼女に夢中になるにちがいありません。

そして、最大のアクシデントは、なんと帰ってくる途中で死んでしまうことです。

もちろん、これは誘拐以上の大ピンチで、その後、生き返るという奇跡が起こらなければ、二度とそこで会えなかったわけですが、この死んで二度と会えなくなるという、その運命的な状況があることによって、おそらく、二人はもう「この人以外考えられないぞ」くらい(結婚?)の強い結びつきを一気に広めてきます。

つまり、これが恋愛という恋から愛に変わり、そしてその愛が、永遠のこの世の中に二人といない“唯一の存在”というふうに変化していく過程の中で、私たちは、自分の「生と死」というものを意識し、誰と生きたいかということを問われることになります。まさに結婚は、誰と生きたいかということを明確にすることであり、雪ちゃんが死んでしまったことで、古代君はこの人と生きていたかったということを、きっと実感したのだと思います。

次の次回作では、お二人が婚約するところからスタートするというふうに聞いておりますが、まさにまさに、そうでなければ、あり得ないくらいの深い強い愛を、この瞬間に築いていったのではないかというふうに思っています。

ずっとライバルであった山本玲さんは、同じ航空隊の男性と静かですが穏やかな恋を育んでいきます。やはり、そういう意味では、同じ職場で同じ価値観を持った方が、どちらかというと、似た者同士でもありますし、彼女のような男性が苦手で、自分の気持ちにストレートなタイプは、むしろ少し余裕を持って、一歩退いて見守ってくれる彼のような存在の方が、結局は長続きするのではないかなというふうに思っています。

ここでも、彼女はまた、この男性に投影を起こしています。つまりお兄さんと同じ、飛行機乗りであることや、お兄さんと同じようなシチュエーションで「生きて帰ってこれないかも」と思ってきた彼が、逆に生きて帰ってきてくれたこと。これに対して、彼女はお兄さんの悲しみを乗り越えていく一つの指針としていくわけです。でも、こういった実直で男性経験の少なさそうな玲さんを、私は、とてもほほえましく思います。
彼女は、自分の心の痛みをよく理解しており、それがゆえに意地を張ったり、過剰反応をすることはありますが、まっすぐで清純な方だと思います。

女性のそういった複雑な心理を分かった上で、優しく包み込んでくれる彼とは、まさにとてもお似合いのカップルだと思わざるを得ません。

以上、「『宇宙戦艦ヤマト』に学ぶ恋愛心理学〈女子編〉~なぜ、森雪ちゃんは古代君をゲットできたのか~」を終わりたいと思います。非常に、稚拙な心理分析ではありましたが、これからもこういった中で、私の大好きな『宇宙戦艦ヤマト』について語る機会があればいいなと思っています。また、皆さんのご意見等をお聞かせくださいませ。