メンタルトレーナーがみた
アニメ「ユーリ!!! on ICE」3
指輪を贈る選手の心は?

世界大会ファイナル
いよいよ引退をかけた最後の試合。
試合の前日に勇利選手が
ヴィクトルコーチにペアリングを贈る
というシーンがあります。

男同士でペアリング?
え?それ恋人?
と、一瞬ドキドキするような
シーンに見えます。
だけど、私にとっては、これこそ
究極のメンタルトレーニング
と感じました。

選手とコーチの絆

コーチと選手はというのは、
男女を超え
友情や恋愛という概念を
はるかに超えた
強い絆で結ばれています。

それは選手という存在をもって
フィギュアスケートという
「究極の芸術作品」
共に創りだしていくという
運命共同体だからです。
一つの究極の目標に向かって
チャレンジする精密に計算された芸術。

フィジカル、テクニカル、
そしてメンタル、、、

すべてが、コーチと選手の
理想通りに表現されたとき、
初めて夢は実現します。

それが世界レベルの作品となると、
もう究極の頂点を目指す
アルピニストのように
崇高でもあり、
世の中にまだ見ぬ
新しい宇宙分子を発見する
科学者のように困難でもあります。

そこにたどり着くまでの
その努力と苦労は
言葉にできないくらい
壮絶なものであることを
私は知っています。

作品を作り、
うまくいかず、
最初できないことばかり。

飛べない、

着氷できない、

流れがつかめない。

コーチが叱る、
褒める、
指導する。

選手は、できない悔しさに
何度も泣きながら
何度も転倒しても立ち上がり
また滑る。
練習しては悩み、
考えては壊し、
壊しては、また創り直す

そういった
選手の命を注いだ芸術作品を、
共同作業で創り上げて行く事なのです。

そうしてようやく、
試合の「スタイル」が完成します。

本番での不安

だけど、練習ではできても
うまくいくのか?
本場で失敗したら?
練習でどれだけ出来ていても
「絶対うまくいく」と
言い切れる選手はいません。

どんなトップスケーターでも
不安はあります。

インタビューで
どれだけにっこり笑って
「金メダルを獲得します!」
と言っても心の中は嵐のように、
不安が荒れ狂っています。

大きな試合前の選手が
その不安から
何か心を安定させたい
何か信じられるものが欲しい
と思うのは、
ごく、あたりまえの事なのです。

ペリングを贈った心理

このシーンでは、

勇利選手はこの時、
引退を考えていたわけですから
最後自分の晴れ舞台を
安定したメンタルの状態で
過ごしていきたい強く願うのは、
当然の事と言えます。

勇利選手にとっては
それがヴィクトルコーチとの
ペアリングだったんだろうなと。

そのペアリングが象徴するものは
まさに氷上で演技をするのは
自分一人であっても
心と心は繋がっている安心感。

そして、
今まで二人で創り上げてきた
究極の芸術表現を
自分らしく発表していく事こそが

2人が莫大なエネルギーと
時間をかけて注いできた
一つの大きな成果であると
信じさせてくれるものだったと
思うのです。

そしてなによりも、
ここまで自分に付き合ってくれた
コーチに心からの感謝を込めて。

メンタルトレーナーと選手

実は、私自身は
メンタルトレーナーとして、
選手の試合前日、

指輪の交換なんて
もちろんしませんし、

食事すらも一緒にしない
クールな関係です(笑)

選手と仲良くなるのが仕事ではなく、
私の仕事は選手を勝たせること。

しっかりと練習を振り返り、
イメージトレーニングを誘導し
明日の試合でのシュミレーションする
メンタルトレーニングのプログラムを
30分弱しっかりと共有した後
選手を笑顔で送り出します。

あとは選手を信じるだけ。

そうメンタルトレーナーのお仕事は
選手を信じるところから始まるのです。

選手のすぐそばにコーチがいて
そして家族や恋人など
プライベートな人間関係も
大切に豊かな人格を育んで欲しいと
思っています。

その中で選手自身が、
自分を少し客観的に見る鏡として
心の専門家がそばにいる事に
意味があります。

コーチや家族の、
その外側で、少し引いた目線で
そして温かい目線で
選手を見守っていきたいと思っています。

アニメ「ユーリ!!! on ICE」は大評判で
たくさんのフィギュアスケートファンや
アニメファンにとっても
大切な作品になったようです。

私自身は勇利選手が本番前に
ストレッチや準備をしている姿をみて
自分も大きな大会の現場を
御一緒した時を思い出し
ドキドキと心拍数が上がって
してしまいました。

フィギュアスケートは
まさに強靭な精神と
しなやかな身体が創り出す
人間が自己表現する究極の芸術作品。
妖精のような美しさは
壮絶な練習と
しなやかで強靭なメンタルで、
形作られています。

この冬もたくさんの選手たちが
今までの人生をかけた成果を表現し、
指導者や観客、
応援するチームみんなで、
きっと歴史に残る素晴らしい演技を
楽しませてくれる事でしょう。