舞台を観ることが大好きな私の原点はニューヨークでの心理カウンセラー修行。

異国での勉強の合間に心を支えてくれたのは、ブロードウェイの舞台を観ること。歌やダンスはエネルギーのように見ている人の心を包み、どんなに疲れていても舞台を見終わった後は不思議なくらい気持ちがすっきりして元気になれた。

アシスタントをしていたブロードウェイの近くのカウンセリングルームには、出演前のアクターたちが気軽に訪れ、カウンセラーの先生といろんな話をしていたのが、私が日本で芸能芸術関係の心理カウンセラーを行うときの基本になりました。

舞台での演者たち。
なによりも苦しいのは本番、初日前。

うまくいくかな?の不安は、どんどんと膨れ上がり、失敗したらどうしよう?迷惑かけたら?終わったと言われたら?

一人でいるとその不安は心と身体を蝕み、本当に声が出なくなったり、お腹が痛くて舞台に立てなくなったりする。

向精神薬剤でなんとか気持ちを落ち着けた途端、薬をのむとセリフが全部とんで、何も覚えられなくなったという俳優さんもおられます。

初日があければなんとか千秋楽まで乗り切ることはよくあります。
だけど私もかつては、女優さんに同行して毎日、全公演、本番前に楽屋に行っていたりしました。

そして舞台が終わったら、話を聞きながら楽屋から一緒に帰る。

自分の演技のこと、歌のこと、共演者の関係性、舞台演出のしんどさ、そして何より弱音を吐けずいつも一人で仮面の笑顔で明るく振る舞い続けることのしんどさ、、、。

明日も舞台に立てるのか?体力も気力もギリギリに削られていく中で、メンタルトレーナーはただその人の話を聞く。

そんなことを全部受け止めて、時間をかけて聞いていくと、最後には「ん、でもね、やっぱり、この仕事好き。だから頑張る!」と。「浮世さん、いてくれてよかったぁ、誰にもこんなみっともないとこ見せられないからね」と笑って部屋に帰って、そしてまた、明日1日をなんとか気持ちで舞台に立つ。

拍手喝采を浴びて、満面の笑顔でカーテンコール。そしてまた楽屋に戻る。
そして同じことの繰り返し。

一日、一日、なんとか気持ちがきれないように。なんとか明日も輝けるように。

そんな思いで、私も舞台のサポートを付き合いけれたのは、私自身がかつてブロードウェイの舞台に救われていたからなのだと思います。

舞台は過酷です。テレビや雑誌のようにディフォルメできない。その時のその人の気持ちがそのまんまリアルに現れてしまうのもまた舞台。

日本で多くのアクター、アクトレスの舞台でのメンタルサポートを続けてきましたがまだまだ力不足を感じる日々。

ご本人だけでなく、舞台の関係者の方にお願いとしては、全ての舞台に専属のメンタルトレーナーをつけてほしいということ。
舞台のスタッフにマッサージをするボディケアの専門家がいるようにメンタルの専門家も裏方の中に加えて欲しいということです。

サッカーのクラブチームだってチームにメンタルトレーナーを導入する時代。そろそろ芸術芸能業界も前に進んで欲しいと願っています。

神田沙也加さん、舞台が好きな私は何度も見せていただきました。伸びやかな声と明るい中にも繊細なパーソナリティが本当に大好きでした。心からご冥福をお祈りいたします。2度と舞台で芸能生活を理由に悩み苦しむ人が出ませんように。