メンタルトレーナーがみた
アニメ「ユーリ!!! on ICE」②

アニメ「ユーリ!!! on ICE」
メンタルトレーナーとしての
見所をお伝えしたいと思います。

選手の試合前や普段の「心理」を
少しでも理解するのに
役立ててもらえたら嬉しいです。

「ユーリ!!! on ICE」
というアニメに描かれる

選手の心理を感じるポイント1

主人公の勇利選手が
ヴィクトルコーチに
『自分を見て』と
一生懸命にアピールするところ。

一見、コーチと選手の強い絆を
表していると思いますが、
個人競技でしかも観られて
採点されるという

「フィギュアスケートという競技の質」

の心理と言えます。

一人で戦う
フィギュアスケートの選手たちは、
その孤独感自己表現という
常に、二つの相反する
精神状態におかれます。

体操競技の担当もしているので
その心理は痛いほどわかります。

みんなが

見られるの大好き!
自分大好き!

かと言うと、
そうでもない。

私の担当選手は、
いつも満員の観客の前で
演技するときに

「俺を見るなー!」

と心で叫びながら
演技しているそうです。

どちらかというと、

職人みたいな感じで、
淡々と決められた事をやってます!
と思い込んで平静さを保っている。

でも、その反面、
調子のいい時は、

観客の息を飲む感じや、
注目された中で
のびのびと演技をしている
気持ちよさと、
技が決まった時の
拍手や喝采を浴びて

「”試合って気持ちいいー”
 快感に浸ってうっとり!」
みたいな気分にもなるそうです。

つまり採点競技という
みせるスポーツは
常に、強い自己顕示欲と
自己否定との中で
揺れ動く心があります。

どんなに、練習しても、
どんなトップアスリートでも
不安がないなんてありえません。

上手くいかなかったらどうしよう。
自分なんてたいしたことない。
あの難しい技は、
うまく着氷できるのか?

試合前には、
常に強い不安と葛藤が
選手を飲み込んでいきます。

不特定手数のお客様に
観せる状態だと、
その葛藤の渦に飲み込まれて
なかなかメンタリティが安定しません。

そこで選手は、こんな風に考えます。

不安と葛藤に飲み込まれないメンタル

自分の身近な人に意識を向けて
その信頼関係や安心感で、
メンタルを安定させれば、
きっと不安定な状態が改善されると。

例えば

「みんなに見られてる!」
と思うと緊張するので、
家族とかコーチとか信頼をおける人に
自分の演技を見せよう

という風に意識を切り替えるのです。

今ここ NOW AND HEAR
(カウンセリングスキルの中で「今、ここ」に集中し
 過去の失敗や将来の不安にとらわれないというプログラム)

を無意識に行う事によって、

精神を安定させ研ぎ澄ました状態に
しようとするのです。

特にこの場合、勇利選手は
ヴィクトルコーチに対して
今まで教えてくれた事に対する
感謝を感じています。

自分の憧れであった
ヴィクトルコーチの教えを
しっかり習得した

「成長した自分」

を見て欲しいわけです。

また教えてもらった事の
コピーではなく、
自分なりのテーマへ
読み解きを深く洞察し、

そこに
自分自身の個性を生かし、
考え抜き「フリースタイルの表現」を
創り出した。

その作品を見てもらいたいのです。

そう考えると不思議と、
緊張することなく
演技ができるのです。

私が担当していた選手は、
とても美しい演技をするのですが、
とにかく繊細で優しい性格でした。

だから、

表現は素晴らしいのだけれど
「競争は苦手」でした。
実力はダントツなのに、いつも二位。

特にライバルと二人での
首位争いみたいになると、
もう目も当てられないくらい
メンタルがボロボロになりました。

ライバルが彼を、
闘争心剥き出しで
睨みつけてくるのを感じると

「そんなに優勝したいなら、
 どうぞ、、、
 僕はもういいです」

と無意識に思っちゃう。

すると、必ず
ここ一番でミスをして、
やっぱり二位、、、

絶対優勝できるくらいの
実力があるのに、
ミスが続いて
最後には負けてしまう。

そんなことが何度もありました。
これが

「勝負に弱い」

「本番に弱いメンタル」

「不運の選手」

と言われる由縁なのですが、

彼は「弱い」のでも
「不運」なのでもなく、
繊細で優しいだけなのです。
だから、私は彼に言いました。

アスリートを変えた言葉

「勝負はしなくていい。
 観客の反応も無視していい。
 あなたは、アーティストなのだから、
 あなたらしく悔いのない
 芸術表現をすればいいだけなんだよ」

    と

「素敵な絵画の展覧会に、
 そっと自分を飾るつもりで。
 あなたの大切な人たちが、
 楽しんで見に来てくれる、

 そんな人たちのために、
 あなたのためだけに、
 思い切り表現してみよう」

メンタルトレーナーとして
帯同したその年、

彼はその大きな大会で
初優勝しました。

それからまるで何かが
大きく変わったかのように、
彼は記録を塗り替え、
華々しくトップアスリートとしての
道を歩み始めます。

今はまだ、思い通りの
結果が出ていないと思う選手だって、
そんな少しのきっかけで、
大きく運命を切り開くことができる。

そんなきっかけの一つに、
メンタルトレーニングがあるのだと
私は思っています。

明日は「ユーリ!!! on ICE」の
メンタルトレーナー的観点、最終回。
あの話題のシーンについて
メンタルの観点からお話します!