今から20年前の世界を震撼させたテロから数週間後、私はニューヨークにいました。

がらがらに空いている成田発ケネディ空港行きの飛行機。テロ後も炭疽菌騒ぎがありアメリカは「今後更なるテロの危険性」を警告し、アメリカは全米からニューヨークに心理カウンセラーたちが集結して【プロジェクトリバティ】と呼ばれる被災した人たちの心のケアを展開していました。

そのケアはアメリカ国民だけが受けられる仕組みで、在米日本人は対象から外してしまう。
私が心理学を学んだアメリカ、ニューヨーク。なんとか恩返しをしたいと言う思いだけで周りの心配を押し切ってニューヨークに統治しました。

ツインタワーのあった最寄駅は閉鎖され、隣の駅から歩きましたが、粉塵と高熱で何かが焼け焦げたにおいが立ち込めた時、あの大規模火災で多くが亡くなった阪神淡路大震災の現地に行った時のことがフラッシュバックしてきました。

私が訪れたグランドゼロはまだ、ブルドーザーが地面を懸命に掘り起こし、いろんな国の言葉で書かれたカードが立ち入り禁止のための柵にたくさん掲げてありました。

あの場所に立ったダメージは相当なもので、私は脚がつり歩けなくなりました。
胸がつかえて、言葉にならない。涙すら出ない。このままホテルに帰ってもきっと生粋もできない、、、。

そう思って私はタクシーでブロードウェイにいき、駆け込むように〈美女と野獣〉のミュージカルを見ました。
「どんなにテロの脅威にさらされようと、私たちはブロードウェイの灯を消さない!だから支援してくださる皆様、どうかニューヨークに来てください!私たちの舞台を見てください!」

出演者自らが「テロ被害の子供達のためにドネーションを」と呼びかけ、劇場に設置された募金のクリアボックスがどんどんとドル札で溢れていく、、、。
人間が起こした最悪のおぞましいテロと懸命に闘うエンターテイメントの姿を目の当たりにしました。

舞台での歌声、楽しいダンスで飛び散る朝、先程のダメージで崩れた心が、人間の持つ可能性の力でどんどんと回復していくのを感じました。
そのことがあって以来、災害のケアだけでなく、大きな事件や事故の心のケアも同じくらい大切なのだと心理カウンセラーとして自分に強く決心しました。

そして、エンターテイメントは単なる娯楽ではなく、心を支えるメンタルヘルスだと言うことも強く伝えてきました。

戦争は本当に人類が創り出した最悪の事態だけど、それをさらに上をいくのがテロだと断言できます。犠牲になるのは覚悟をもった兵士でもなければ何か悪いことを人でもなく、ただ、その場にいて家族や職場で日々懸命に生きていた人たち。あの時のツインタワーの電話交換手は今でも悲鳴のような助けを求める声が忘れられないと話していました。

ツインタワーの近くにあった小学生の親は子どもたちのPTSDをとても心配していて私に相談をしてくれました「ママ、ビルの上に黒くてたくさんバタバタしてる。カラスがいるの?」「地面に落ちているお肉はなあに?」(ビルから多くの人が落下した姿をたくさんの子供たちが目撃しています)

日本では渡米禁止令が多くの企業で出ていたので、あの時あの記憶を語れる人はきっと多くはいないのでしょう。
でも、これからますます混沌とする世界の中で私たちが、本気で平和であり続ける世界をつくると決心しないと、あっという間に世の中は大変なことに巻き込まれていくのだと思います。

そして、政治家でもなんでもない私ができることは、心のケアの専門家として、あの粉塵のにおいと、悲痛な声と、そこで人々が支え合いながら過ごした記憶を1人でも多くの人に伝え続けていくことなのだと思います。

心のケアの専門家だからこそ言えること。そんな思いを忘れずに、自分のできることをこれからも全力で、頑張ります。